2021年11月05日

緊急事態宣言もあけて、県内旅行ぐらいはいいかなと思い、家族と愛犬を連れて淡路島に出かけました。古事記によると　淡路島は伊弉諾尊（いざなぎのみこと）・伊弉冉尊（いざなみのみこと）が天沼矛（あめのぬぼこ）で下界をかき回し、日本で最初に生まれた特別な島です。NHKのブラタモリでも取り上げられていた伊弉諾（いざなみ）神宮にも参拝し、夫婦円満　家内安全を祈願しました。（小さな島にある小さな神社に、伊勢神宮、平安神宮、明治神宮などと同じ格式を持っているのが驚きです。）

古事記に登場する数々の神話は、産婦人科医の目から見てとても示唆にとんでいると思っています。女神イザナミは、淡路島を生む前に流産を経験した様ですし、最後に火之神を生んだ時、陰部を焼かれて帰らぬ人となりました。（黄泉の国へ　亡き妻を捜しにいくイザナギの物語は、亡き妻エウリュディケを求めて冥界を彷徨うオルフェウスを彷彿とさせます。）そのほかにも、古事記にはヤマトタケルの恋人であったミヤズヒメの月経の話や、陰部を負傷して死んだ織女の話など性にまつわる話も多いのです。陰部のやけどで死んだとういイザナミ。やけどの重症度は、焼かれた面積と深さによって決まります。高校の保健の時間に習った「９の法則」は、やけどの予後をうらなう上では重要です。しかし会陰部の体表面積全体に占める割合は、１％にすぎません。第一、子供を産んだ後に　会陰部にやけどをおうなんて事故は通常はあり得ない。ならばイザナミはなぜ火之神をうんだあとに亡くなったのか。

私見ではイザナミの死因は産褥熱（さんじょくねつ）による敗血症ではなかったかと思っています。古来より分娩は、新しい生命の誕生であり、それは大変な慶事であったわけですが、同時に多くの若い女性の命を危険に晒してきました。分娩時の大量出血や子癇発作（高血圧性脳症）などが、新しい生命の誕生と引き換えに女性の命を奪ってきたのです。産褥熱も、古来多くの佳人の命を奪ってきました。（17世紀のムガル皇帝シャー・ジャハーンの寵愛したムムターズ・マハルは産褥熱で命を落としました。最愛の妃の思い出を永遠に留めるべく、ジャハーンが建てた廟が世界遺産タージ・マハルです。）我が国でも明治期まで、年間に3000人近い女性が　産褥熱の犠牲になっていました。（下図）

産褥熱とは、産後24時間から10日以内に2日間、38度以上の熱が出ることを指します。お産の際に細菌が腟や子宮に入り、感染することで起こります。発熱の他に腹痛、悪露（おろ：分娩後の分泌物）の悪臭などの症状が現れ、破水後24時間以降のお産や帝王切開術、胎盤遺残、母体の免疫力低下などが原因として考えられます。（産婦人科用語集より）消毒法の改善や抗生剤の普及で　現在ではそれほど恐ろしい病気ではなくなりましたが、それでも産後の発熱には注意が必要です。抗生物質の普及は　第２次大戦後ですが、図を見ると　昭和に初期（１９３０年代）には　産褥熱の犠牲者は激減しています。これは　公衆衛生と消毒法の普及のおかげと言われています。この事については　次回にお知らせしましょう

（東京都健康安全研究センターのHPより）

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