G山荘の夜話（後編）｜兵庫県川西市婦人科レディースクリニックかとう

院長コラム

G山荘の夜話（後編）

2022年12月19日

半世紀以上昔に、校庭を走り、ドロだらになってで遊んだ仲間達と、今も繋がっていられることは、幸せなことです。山荘での晩餐もデザートに移りました。ソムリエの計らいで１本だけテーブルの上にのこった寿屋のブレンドウイスキー。戦中戦後の日本をずっとみつめてきた歴史の生き証人です。

今年９月、英国のエリザベス女王が、崩御されました。天皇陛下は、初の海外公務として、葬儀に御参列されました。６９年の在位を誇った女王さまが戴冠されたのは、昭和28年（1953年）のことです。この時は、昭和天皇の名代として　当時まだ皇太子だった上皇陛下が、参加されました。戴冠の時27歳だった女王は、19歳の若きプリンスと一緒に競馬を観戦するなど、温かく迎えて下さったそうです。

ベアトリス・ジョンソン彩色「エリザベス２世」１９５２年、ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー蔵

　しかし世界大戦で干戈を交えた元敵国のプリンスに向けられた英国民の心境は複雑なものでした。一部の人たちの間に強い反日感情が残っていたのも事実です。保守党の重鎮であったチャーチルは、既に始まっていた東西冷戦の世界情勢をにらみ、民主化された新生日本との間の関係修復を願っていました。日本の皇太子の訪英を快く想わないマスコミや労働党の関係者を招待した晩餐会で一役かったのが、冒頭に紹介した寿屋のウイスキーでした。戦争の傷跡が色濃くのこり、戦勝国の英国でさえウイスキーの大半が対米輸出に向けられ、庶民の口に入りにくくなくなっていた時代。気取る事のない明るい皇太子さまのお人柄もあいまって、メイドインジャパンの名酒はすべての参加者に感動を与え、のど元に刺さった骨のような日英のわだかまりを融解してくれたのです。

　宴もたけなわ、年老いたチャーチルは、招待者に訴えます。「我々でもなかなか作れないこんなウイスキーを作れる国民が、本当に野蛮で暴力的なファシストなのでしょうか」と。味覚や触覚は、視覚や聴覚と違って、デジタル化して多数で共有する事が困難です。それぞれの人には好みがあり、受け止め方も様々です。ウイスキー発祥の国の人々をもうならせたこの日本のウイスキーを作り出した鳥居さんやマッサンの努力と才能には脱帽せざるを得ません。